妥協的な暫間固定が行われていた残存歯に対して、必要な補綴前処置を行った上で金属床義歯を製作することで咀嚼障害を改善した症例
症例
歯が揺れている、義歯が合わない
診断
慢性歯周炎に起因する義歯の動揺による咀嚼障害
口腔写真
Before
After
レントゲン写真
治療ポイント
長年使って見えたご自身の入れ歯に不満があり来院されました。慢性歯周炎により動揺の強い歯や重度う蝕により歯冠補綴困難な歯に対して、妥協的な固定や補綴がなされており、それらに義歯のクラスプが設定されていたため、義歯の維持安定が得られず、咀嚼障害を引き起こしていました。
検査の結果、予後不良歯に関しては抜歯を行い、保存可能な歯に対しては歯周病治療を行い、鉤歯となる歯の状態を改善させています。その上で、上顎義歯の設計上、右上第一大臼歯1本のみ残存することから、その歯に適切な支持、把持、維持を設定する必要があったため、サベイドクラウンにて歯冠補綴を行いました。サベイドクラウンとは歯の膨隆やアンダーカットを事前に術者主導で設計することで、義歯装着時に義歯の支持、把持、維持を良好に設定するための装置になります。
上顎の最終義歯は剛性の高い金属床義歯を製作しました。下顎は保険による部分床義歯を希望されましたが、上顎と同じく鉤歯をサベイドクラウンで補綴することで、適切な支持、把持を付与した義歯を製作しています。
義歯は歯がないところに入れるだけ、と思われている方もいらっしゃいますが、本症例のように補綴前処置を適切に行っているかどうかで最終義歯の安定が大きく変化します。
治療に伴う一般的なリスク・副作用
- 【義歯】
・歯がなくなった部分に着脱可能な人工の歯を装着して治す方法です。全ての歯がない場合を全部床義歯もしくは総義歯、1〜13本の歯がない場合を部分床義歯と言います。
・義歯はリハビリをするための補装具であり、義手や義足と同じ扱いになります。そのため、製作後は使いこなせるようリハビリが必要になります。
・義歯装着後は、義歯が動くことにより靴擦れのような痛みが必ず生じます。
・新しく義歯を製作した場合、3ヶ月程度適応に時間がかかる場合があります。
・義歯が使用可能になった後でも、義歯内面の調整や噛み合わせの調整などのメンテナンスが必ず必要です。メンテナンスを怠ると、歯茎や顎の吸収が早くなり不適合になりやすくなります。 - 【フルマウスリコンストラクション】
・フルマウスリコンストラクションとは、口の一部分だけではなく、全体的に治療を行い、噛み合わせを1から再度作り直していく治療をいいます。
・治療期間の変更:フルマウスリコンストラクション長期間の治療が必要となる場合があります。歯や歯肉の状態、反応、骨の状態、歯の萌出や動きには個人差があり、治療期間が延長することがあります。
・治療の成果:指示された装置を十分に使用しなかったり、口腔清掃の不備、悪習癖の改善努力、予約を守らない方の場合、治療が正常に進行せず、治療期間が長引くだけでなく、治療で良好な結果が得られなくなることがあります。
・治療計画の変更:フルマウスリコンストラクションの治療には複数の手技を平行して行う場合がほとんどです。治療の途中で、治療期間の延長、治療方針の変更、抜歯などが必要になることがあります。
・再発と再治療:フルマウスリコンストラクション後、口腔清掃の不備、歯ぎしり、喰いしばり等の悪習癖の悪化などにより虫歯や歯周病の再発、修復物や歯根の破折が起こった場合、再治療が必要となり別途費用がかかる場合があります。
・歯の痛み:修復物を入れたばかりのときや、治療をした後は歯が浮いたように感じることや、痛みを感じる場合もありますが、通常数日で軽快します。あまりに症状が強く日常生活に支障を来たす場合は早目のご相談が必要です。
・顎関節症は一度発症すると回復が困難になるケースもあります。 - 【金属床義歯】
・強度が高く、入れ歯を薄くしても破折しにくくたわみが少ないです。
・咬合力が著しく強い場合、金属床義歯が破折することがあります。
・歯肉が変化するため、長期的には不適合になります。そのため、継続した調整が必ず必要になります。
・咀嚼することで人工歯が咬耗し、義歯が動くようになったり痛みが生じる場合があります。そのため、継続した調整が必ず必要になります。