症例
体重が減ってきている。食事が取れない。
義歯がないと不穏になるので義歯を製作してほしい。
診断
体重減少に起因する咽頭の筋力低下による嚥下機能低下
全身状態の低下に起因する意識レベルの低下による先行期障害・不穏
全身疾患 化膿性脊椎炎 認知症(背景疾患の診断なし)
口腔写真
Before
After
治療ポイント
病院から退院するものの、嚥下状態が悪く食事がほとんど取れないため、在宅でのフォローを看護師から依頼され歯科訪問診療介入することとなりました。
既往歴として、化膿性脊髄炎で入院し1か月で46kgから40kgに体重が減少していました。また発熱を繰り返すことが多いとのことでしたが、医科の診断では化膿性脊髄炎か誤嚥性肺炎か尿路感染か原因は不明とのことでした。
初診時には、訪問看護師とともに食事観察を行いました。介護者である妻の介助ペースが早く、口の中が食事でいっぱいになってしまい飲み込みづらいという問題点や、口腔機能・咽頭機能の低下による飲み込みづらさ、残留物の流入による誤嚥を疑う所見を認めました。
嚥下機能低下を引き起こす疾患は有さず、嚥下内視鏡の検査結果でも咽頭機能の明らかな低下は認めなかったことから、全身状態の悪化による一時的な嚥下機能低下と口腔機能の廃用と判断し、口腔のマッサージ、舌運動を含む間接訓練、継続した口腔衛生管理を行うこととしました。間接訓練を行ったところ徐々に発語が増え、発熱が繰り返されることも減少、自身で痰を喀出でき、座位保持の時間も伸びていきました。
全身状態が安定してきたため呼吸訓練、新義歯製作を開始しました。新義歯装着後は表情は豊かになり、水分摂取回数の増加、座位保持時間がさらに伸びていきました。食事の形態もアップし徐々に体重の増加を認めました。現在は食べ物を実際に食べていただく直接訓練も行っており、調子のいいときにはウナギなど季節の旬の物、歌舞伎上げなどを召し上がっていただいています。
この症例に使用した装置と費用
歯科訪問診療 | 約 - 円(税込) |
---|
※備考 保険診療での受診
治療に伴う一般的なリスク・副作用
- 【嚥下内視鏡】
・嚥下内視鏡検査(VE:videoendoscopic examination of swallowing)とは内視鏡を鼻から挿入し、安静時、嚥下時の咽頭・喉頭を観察するものです。被爆なく長時間の検査ができ持ち運びが可能なため訪問診療でも実地できます。
・まれに鼻出血を引き起こすことがあります。
・まれに消毒薬によるアレルギー反応を引き起こすことがあります。 - 【義歯】
・歯がなくなった部分に着脱可能な人工の歯を装着して治す方法です。全ての歯がない場合を全部床義歯もしくは総義歯、1〜13本の歯がない場合を部分床義歯と言います。
・義歯はリハビリをするための補装具であり、義手や義足と同じ扱いになります。そのため、製作後は使いこなせるようリハビリが必要になります。
・義歯装着後は、義歯が動くことにより靴擦れのような痛みが必ず生じます。
・新しく義歯を製作した場合、3ヶ月程度適応に時間がかかる場合があります。
・義歯が使用可能になった後でも、義歯内面の調整や噛み合わせの調整などのメンテナンスが必ず必要です。メンテナンスを怠ると、歯茎や顎の吸収が早くなり不適合になりやすくなります。 - 【嚥下診察】
・口腔内の診察だけでなく、全身状態、服用薬の確認、食事観察、頸部聴診、必要に応じて嚥下内視鏡検査を行い食事がおいしく安全に召し上がれているか診察を行っています。
・食形態を上げることにはリスクがあります。主治医と相談の上進めますが、食形態向上後、発熱や痰の増加を認める場合には注視することがあります。
・安全な食形態を探すため、必ずしもご本人やご家族のご要望には添えない場合があります。 - 【歯科訪問診療】
・歯科医師や歯科衛生士が通院困難な方の自宅を訪問し診療を行います。
・基本的には全ての治療ができますが、重度の全身状態の悪化の場合は大きな病院を紹介することがあります。
・訪問歯科診療の対象となるのは、「通院困難」な理由が必ず必要となります。